貯水槽の水が濁ってしまった。さらに油膜の様なものも見える。何が混入したのか知りたい。
●貯水槽の急に水に濁りが生じた。さらに油膜も見える。
●発生したのは金属加工工場の排水処理施設の貯水槽。
●工場で使用している潤滑油や切削油などの混入が疑われたため、油分などの分析をご依頼頂いた。
水の濁りと油膜ということで、初めのお客様からは油分(n-ヘキサン抽出物質)、SS(浮遊粒子状物質)、BOD(生化学的酸素要求量)、界面活性剤などの有機物関連の分析をご依頼いただきました。
受け取ったサンプルには赤褐色の濁りがありました。これまでの経験から「濁りと油膜の原因はおそらく有機物ではない」と予想をつけ、ご依頼の分析を始める前にお客様と原因究明の分析計画について相談。
受け取ったサンプルに対しては、TOC(全有機炭素)による有機物分析と、蛍光X線分析による濁りの元素組成分析のみを行い、続きは現地へ出向いて調査することとしました。
濁りの原因は「鉄」でした。
鉄はメタリックな金属の形態以外にも、赤錆などの鉄(Ⅲ)と呼ばれる価数が3価の状態、黒錆などの鉄(Ⅱ)と呼ばれる価数が2価の状態があります。ちなみに金属状態の鉄の価数は0価です。
鉄のイオンも同様に、赤褐色をしている3価のFe3+イオンと、緑色をしている2価のFe2+イオンがあります。
Fe2+イオンは水に溶けるのですが、Fe3+イオンは水にあまり溶けないので、溶けきらない分が析出してしまい濁りとなってしまいます。この現象が水道管などで起こると「赤水」などと呼ばれます。
Fe2+イオンは不安定で、酸素などによって酸化されてすぐにFe3+イオンになり析出してしまいます。本件もサンプル受領時にはすでに鉄が3価となってしまっていたので、現地で鉄の分析をする必要がありました。また濁った水に塩酸を少し加えて濁りが消えることも確認できました。
油膜の原因も「鉄」でした。
自然界にはFe2+イオンをFe3+イオンにすることでエネルギーを得る「鉄バクテリア」と呼ばれる微生物がいたるところに生息しています。鉄バクテリアは水面にまるで油膜のような鉄の酸化皮膜を作るときがあります。この酸化被膜は水田や排水溝などにも発生し、油の漏洩事故と勘違いされるケースもあります。
灯油などによる本当の油膜と、鉄バクテリアによる疑似の油膜とを区別する方法のうち、「油膜をつついてみる方法」と「酸を加えてみる方法」をご紹介します。
①油膜をつついてみる方法 油膜をつついてからしばらく観察していると、本当の油膜は切り口が徐々にふさがり油膜と油膜がくっつきます。一方、疑似の油膜の切り口はふさがらず油膜と油膜はくっつきません。
②酸を加えてみる方法 油膜の浮いた水に酸を加えてかき混ぜます。かき混ぜても消えないのが本当の油膜、溶けて消えてしまうのが疑似の油膜です。
貯水槽の油膜はどちらの方法でも鉄バクテリアによる疑似の油膜だと確認できました。
以上の分析により、貯水槽の濁りと油膜は排水処理にて鉄の除去が不十分だったために生じたものと分かりました。
TOC(全有機炭素) SS(浮遊粒子状物質) 蛍光X線分析 現地試験