A:検出限界は有無が判定できる最小量、定量下限は信頼できる分析値の最小量です。
物質の量や濃度を数値化する定量分析には、“検出限界(検出下限)”や“定量下限(定量限界)”という用語があります。
その違いについて、算出方法の一つでもあるS/N比(シグナル/ノイズ比)を例に説明します。なお“限界”と“下限”の使い分けについて特に規定などはありませんが、ここでは検出限界と定量下限を用います。
<検出限界>
多くの分析装置では分析対象物質に関する情報が電気信号(シグナル)として得られ、物質量が多いほどシグナルは大きくなります。一方で電気信号には無作為な変動(ノイズ)があります。この場合の検出限界とはノイズの中から対象物質のシグナルを合理的に見つけ出せる最小量のことです。
一般的にはS/N=3(シグナルがノイズの3倍)が用いられています。分析値が検出限界を下回った場合には“ND”や“不検出”などと表記されることが多いです。
<定量下限>
定量下限とは合理的に信頼できる最小の分析値のことです。(【No.14】検出されないことの定量限界は法律的なものであり意味合いがやや異なります。)
「信頼できる=要求される精度を満たしている」ことであり、要求される分析値の精度により必要なS/N比も異なります。
一般的な定量分析では±10%の精度が要求され、S/N=10が用いられています。分析値が検出下限を下回った場合には“○○未満”や“<○○”などと表記されることが多いです。
分析対象が微量であったり、妨害を受けたりする場合には、バックグラウンドや抽出・精製等の前処理の影響が無視できなくなります。するとS/N比だけでは検出限界や定量下限を正しく算出できませんので、S/N比以外の算出方法も提案されています。
算出方法の一つに、同様の分析を何回も繰り返し、その標準偏差から検出限界や定量下限を求めるものがあります。この算出方法もS/N比と同じ考え方を用いており、標準偏差の3倍(3σ)を検出限界、10倍(10σ)を定量下限とすることが多いです。